東京高等裁判所 平成9年(行ケ)232号 判決 1998年11月10日
愛知県春日井市八幡町78の6番地
原告
納谷正勝
訴訟代理人弁理士
岡田英彦
同
小玉秀男
同
池田敏行
同
長谷川哲哉
同
岩田哲幸
同
中村敦子
同
村瀬裕昭
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 伊佐山建志
指定代理人
麻野耕一
同
大橋隆夫
同
井上雅夫
同
小池隆
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
「特許庁が平成5年審判第10032号事件について平成9年7月30日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
2 被告
主文と同旨の判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、平成元年7月17日、名称を「OA機器の入力装置」とする発明(以下、「本願発明」という。)につき、特許出願(平成1年特許願第183938号)をしたが、平成5年3月26日拒絶査定を受けたので、同年5月18日拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は、この請求を同年審判第10032号事件として審理した結果、平成9年7月30日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年8月25日原告に送達された。
2 本願発明の要旨
本体に備えられた多数の入力端子と、該本体に接続されている入力器具とを具備するOA機器の入力装置において、前記入力器具が複数の種類の検出部を有し、該検出部のいずれかが前記入力端子のいずれかに接触し、該接触した入力端子の入力値の形態を前記入力端子に接触した検出部の種類によって判別しうることを特徴とするOA機器の入力装置。
3 審決の理由
審決の理由は、別紙審決書写し(以下「審決書」という。)に記載のとおりであって、本願発明は、刊行物1記載の発明及び同2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断した。
4 審決の取消事由
審決の理由1(手続きの経緯・本願発明)及び同2(刊行物記載の発明。ただし、審決書4頁17行の「入力ペン7a~7dが使用されて」は、「入力ペン7a~7dのどのペンが使用されて」の誤記であり、6頁8行及び7頁15行の各「同刊行物第3項」は、いずれも「同刊行物第2項」の誤記である。)は認める。
同3(本願発明と刊行物記載の発明との対比)、同4(相違点についての判断)及び同5(結び)は争う。
(取消事由)
審決は、本願発明の技術事項の認定を誤ったため、本願発明の「入力端子」、「入力値の形態」はそれぞれ刊行物1記載の発明の「格子状の文字入力領域」、「文字の種類」を包摂し、さらに、「入力ペンを使用してタブレット上の文字入力領域に文字を書く場合には、“接触”を伴うのが通常であるから、両者は、次の点で相違するものの、その他には実質的な相違はない。」と一致点の認定を誤ったものであり、違法なものとして取り消されるべきである。
(1) 入力端子について
<1>(a) 本願発明の「入力端子」は、その特許請求の範囲の記載から明らかなように、多数存在し、あらかじめ入力値が割り付けられており、そのうちのいずれかに接触することによって入力値が特定されるものである。
(b) 本願発明の特許請求の範囲にいう「接触」は、日本語の通常の意味での接触を意味し、例えば、A用の入力端子に接触すればAが入力され、B用の入力端子に接触すればBが入力されるような場合の接触を意味する。
これに対して、刊行物1記載の発明におけるように、「文字を書く」ことは、接触という動作をその一部に備えてはいるが、被接触面に対して筆記具等を接触させつつ移動させることにより、一定の意味のある点の集合体を形成することである。したがって、文字を書くことは、それ自体ある特定の値を入力することを含んでいるという点において、本願発明にいう「接触」とは相違する。
(c) 仮に、本願発明の特許請求の範囲の記載から本願発明の「入力端子」の意義を一義的に明確に理解することができないとしても、本願明細書の発明の詳細な説明の[発明が解決しようとする課題]の欄には、キーボードによって入力するときの不都合を解消することが本願の課題として記載され、[作用]の欄には、検出部を入力端子に接触させることにより、直ちに入力端子からの入力値の形態(この場合はひらがな)が判別されて入力されることが記載きれ、[実施例]の欄には、多数の入力端子を備えるとともに、そのうちのいずれかの入力端子に接触することのみで入力値が特定されるキーボードが記載され、例えば、入力端子2にあらかじめ割り付けられた入力値「あ」を、検出部の種類によってその形態を判別し、入力することが記載され(甲第4号証の1第6頁9行ないし17行)、また、このキーボードは、添付の第1図に図示されている。
これらの記載を参酌すれば、本願発明の特許請求の範囲にいう「入力端子」が、キーボードのキーのように、あらかじめ入力値が割り付けられており、単なる接触によって入力値が特定されるものを意味することが明らかである。
<2> これに対し、刊行物1記載の発明の「格子状の文字入力領域」は、上記のような多数の入力端子のいずれかを選択して接触することによってその1文字を入力するという意味での入力端子には該当しない。刊行物1記載の発明において格子状の文字入力領域が複数存在するのは、複数のマス目が存在しているという意味であって、1文字の入力用に多数の入力端子を備えているものではない。
(2) 入力値の形態について
上記(1)に述べたことからすると、本願発明にいう「入力値の形態」とは、あらかじめそれぞれの入力端子に割り当てられた文字あるいは記号等の2以上の形態であるとするのが素直な解釈であり、刊行物1記載の発明における「文字の種類」と異なることは明らかである。
第3 原告の主張に対する認否及び反論
1 請求の原因1ないし3は認め、同4は争う。審決の認定、判断は正当であり、原告主張の誤りはない。
2 反論
(1) 入力端子について
<1> 本願発明の特許請求の範囲には、「キーボード」なる文言は、一切記載されていない。したがって、本願発明にいう「多数の入力端子」は、本願発明の実施例として記載された「キーボード」に限定されない。
<2>(a) 「端子」とは、「外部と接続するために利用できる構成部分であって、信号またはエネルギーの出入口として用いられるもの。」(乙第3号証-JIS用語辞典電気編)と説明される。また、上記説明から、「入力端子」が、入力のための外部との接続部分が特定の形状又は構造であることを要しないことは明らかである。とすれば、本願発明における「入力端子」が「キーボード」の「キー」以外のものを包含する語であることは明らかである。
(b) 刊行物1記載の発明において、タブレット上に設けられた「文字入力領域」であるマスは、手書き文字入力のための複数個の接点を備えている。換言すれば、「文字入力領域」であるマスは、「1文字を人の操作により(外部から)手書き入力するための複数個の接点を1単位とした信号の入り口」であるということができる。とすれば、刊行物1記載の発明においては、「文字入力領域」であるマスが、外部と接続するために利用できる信号の入り口であることは明らかである。
(c) しだがって、刊行物1に記載された「文字入力領域」であるマスは、本願発明にいう「入力端子」に包含されるものである。
<3> 本願発明の特許請求の範囲には、入力端子が多数存在することは記載されているものの、接触の態様については何ら記載されていないのであるから、「接触」の点も、本願発明でいう「多数の入力端子」が「キーボード」に限定解釈される理由とはなり得ない。
刊行物1記載の発明においても、使用者はタブレット上に多数存在する格子状の文字入力領域のうちのいずれか1つの領域上で入力ペンを「接触」させながら文字を書くという操作をしなければならず、しかも、上記いずれか1つの領域は、「格子状の文字入力領域」が「多数」存在するがゆえに、文字を手書き入力しようとする使用者によって選択された領域であるものである。
(2) 入力値の形態について
<1> 本願発明の特許請求の範囲には、接触により入力端子から生ずる「入力値の形態」についても、単に「入力値」とのみ記載されているにすぎず、それ以上の限定はない。
<2> 刊行物1記載の発明においては、タブレット上に複数設けられた格子状の文字入力領域は、入力ペンにより文字が手書きされると、複数個の座標情報を生じるものであるから、この複数個の座標情報は、入力ペンのいずれかにより多数の格子状の文字入力領域のいずれかを選択して接触を伴いながら文字が手書き入力されたとき、該選択・接触された格子状の文字入力領域から生じる値である。
<3> してみれば、本願発明の「入力値」は、刊行物1記載の発明の「複数個の座標情報」を包摂するものである。
理由
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)及び同3(審決の理由の記載)については、当事者間に争いがない。
そして、審決の理由2(刊行物記載の発明)は、当事者間に争いがない。
2 そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。
(1) 原告は、本願発明の「入力端子」は、その特許請求の範囲の記載から明らかなように、多数存在し、あらかじめ入力値が割り付けられており、そのうちのいずれかに接触することによって入力値が特定されるものである旨主張する。
<1> 本願発明の入力端子は、特許請求の範囲の「本体に備えられた多数の入力端子」、「該検出部のいずれかが前記入力端子のいずれかに接触し」、「該接触した入力端子の入力値の形態を前記入力端子に接触した検出部の種類によって判別しうる」との記載からすると、ⅰ)本体に備えられていること、ⅱ)多数あることを要件とし、さらに、入力端子と検出部との関係では、ⅲ)検出部のいずれかが入力端子のいずれかに接触すること、ⅳ)該接触した入力端子の入力値の形態を検出部の種類によって判別することを要件とするものと認められる。
しかしながら、本願発明の特許請求の範囲には、それ以上に、入力端子を、各入力端子から入力できる文字、数値等があらかじめ割り付けられているものに限定する記載はないから、本願発明の入力端子をそのように限定して解釈することはできないといわなければならない。
<2>(a) 一方、当事者間に争いのない刊行物1の記載内容によれば、刊行物1記載の発明のタブレット上の格子状の文字入力領域は、多数あり、本体に備えられているものであるがら、本願発明の特許請求の範囲における上記ⅰ)、ⅱ)の要件を備えるものである。
(b) ⅲ)検出部のいずれかが入力端子のいずれかに接触することとの要件については、本願発明の特許請求の範囲には、接触の態様を限定する記載はない。前記刊行物1の記載内容によれば、刊行物1記載の発明も、いずれかの入力ペン(漢字用入力ペン、ひらがな用入力ペン等)により格子状の文字入力領域のいずれかに文字を書いて入力するものであり、入力ペンと格子状の文字入力領域との接触を伴うものであるから、本願発明の特許請求の範囲における上記ⅲ)の要件を備えるものである。
(c) ⅳ)該接触した入力端子の入力値の形態を検出部の種類によって判別することとの要件について検討する。
甲第4号証の1ないし3によれば、本願明細書の実施例には、「本実施例における検出部6は図に示すように3種類の検出部6a、6b、6cを有し、これらの検出部6は使用の際互いに他の検出部の邪魔にならないような位置と長さに形成されていて、検出部6aは「ひらがな」を、6bは「カタカナ」を、6cは「漢字」を、又英字のときの大文字は検出部6aを、小文字のときは検出部6bを、数字のときは全角文字は検出部6aを、半角のときは検出部6bを使用することによって入力端子2からの入力値の形態を区別する。」(甲第4号証の1第4頁16行ないし5頁5行及び甲第4号証の2第2頁19行、20行)と記載されていることが認められ、この記載によれば、「入力値の形態」は、ひらがな、カタカナ等の文字の種類を含み、文字の種類に対応してあらかじめ決められた検出部を使用することにより決定されるものを含むことが認められる。
そして、前記刊行物1の記載内容によれば、刊行物1記載の発明も、ひらがな、カタカナ等の文字の種類が、いずれの入力ペンを使用するかで決定されるものである。
したがって、刊行物1記載の発明は、本願発明の特許請求の範囲における上記ⅳ)の要件を備えるものであり、本願発明の「入力値の形態」は刊行物1記載の発明の「文字の種類」を包摂するものである。
(2) 原告は、本願発明の特許請求の範囲の記載から本願発明の「入力端子」の意義を一義的に明確に理解することができないとしても、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面を参酌した場合、本願発明の特許請求の範囲にいう「入力端子」が、キーボードのキーのように、あらかじめ入力値が割り付けられており、単なる接触によって入力値が特定されるものを前提とすることは明らかである旨主張する。
しかしながら、本願発明の出願時において、キーボードと入力器具とを組み合わせて使用するOA機器が製品化されているとの事情も認められず、本願発明の特許請求の範囲にいう「本体に接続されている入力器具を具備する入力装置」からは、キーボードよりもタブレット上に手書き入力する装置の方が容易に想起されるものであるから、本願発明においてはキーボードのようなもののみが当然に使用されるものであるとの技術常識も認定することができない。しかも、甲第4号証の1ないし3によれば、本願明細書及び図面には、[産業上の利用分野]の欄に、「本発明はOA機器の入力装置に関する。」(甲第4号証の1第1頁14行、甲第4号証の2第2頁3行、4行)と記載され、[従来の技術]の欄にも、「従来、OA機器としてパソコン、日本語ワープロ等への入力はOA機器に備えられているキーボードを押圧することによって行なわれていたり、あるいはバーコードリーダーを使用して入力している。」(甲第4号証の1第16行ないし20行)と記載されており、本願発明の「入力端子」がキーボードのようなもののみに限定はされていないものである。なお、[実施例]の欄や[発明が解決しようとする課題]、「作用」の欄における具体例を示した説明中でキーボードに基づき説明されていても、それらは飽くまで実施例としての記載であり、特許請求の範囲の意味するところが「実施例」等に記載されたものに限定されるものでないことは当然である。
以上によれば、本願明細書及び図面の記載を参酌しても、本願発明にいう「入力端子」を原告主張のように限定して解釈することはできず、原告の上記主張は採用することができない。
(3) したがって、刊行物1記載の発明の「格子状の文字入力領域」は、本願発明の「入力端子」に包摂され、刊行物1記載の発明の「文字の種類」は、本願発明の「入力値の形態」に包摂され、接触の点でも相違はないものであるから、一致点の認定の誤りをいう原告主張の取消事由は理由がない。
(なお、本願発明の特許請求の範囲の記載及び前記刊行物1の記載内容によれば、本願発明の「入力器具」が刊行物1記載の発明の「入力ペン」を包摂すること等のその余の一致点、相違点の認定にも誤りはないと認められる。さらに、一致点、相違点の認定に誤りはない以上、審決の相違点についての判断(審決書10頁5行ないし19行)にも誤りはないと認められる。)。
3 よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する(平成10年10月22日口頭弁論終結)。
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)
平成5年審判第10032号
審決
愛知県春日井市八幡町78の6番地
請求人 納谷正勝
愛知県名古屋市中区栄2丁目10番19号 名古屋商工会議所ビル内岡田・小玉国際特許事務所
代理人弁理士 岡田英彦
愛知県名古屋市中区栄2丁目10番19号 名古屋商工会議所ビル内岡田・小玉国際特許事務所
代理人弁理士 小玉秀男
平成1年特許願第183938号「OA機器の入力装置」拒絶査完に対する審判事件(平成3年3月1日出願公開、特開平3-48916)について、次のとおり審決する.
結論
本件審判の請求は、成り立たない.
理由
1. 手続きの経緯・本願発明
本願は、平成1年7月17日の出願であって、同4年12月14日付け及び同5年6月10日付け各手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その発明(以下、「本願発明」という。)の目的は、入力の迅速化及び省スペース化を図ることであり、その発明の構成は、特許請求の範囲に記載された次のものである。
「本体に備えられた多数の入力端子と、該本体に接続されている入力器具とを具備するOA機器の入力装置において、前記入力器具が復数の種類の検出部を有し、該検出部のいずれかが前記入力端子のいずれかに接触し、該接触した入力端子の入力値の形態を前記前記入力端子に接触した検出部の種類によって判別しうることを特徴とするOA機器の入力装置」
2. 刊行物記載の発明
(1)原査定の理由に引用された特開昭61-226822号公報(昭和61年10月8日特許庁発行、以下、「刊行物1」という。)には、複数の入力ペンを有し、ペンの種類によって文字の種類を判別する形式の手書き文字認識装置が記載されており、これについて、次の各事項が図面と共に記載されている。
a. 「本発明は…(中略)…タブレット上に文字の種類に応じた領域を設けず、タブレットを全て文字を書くためだけの領域として使用することができるように構成した手書き文字認識装置を提供することを日的としでいる。」(上記刊行物第1頁下右欄第19行~第2頁上左欄第4行)
b. 「第1図は装置全体の制御回路のブロック図で、図において符号1で示すものは中央演算処理装置(CPU)で、後述するようにして全体の制御動作を行なう。
このCPU1にはアドレス、データバス8を介して第3図のフローチャートに従った制御ブログラムや文字の認識処理を行なうブログラムが格納されているリードオンリメモリ(ROM)2、ROM2で使用するランダムアクセスメモリ(RAM)3が接続されている。
また、符号4で示すものはタブレット制御部でタブレット5が接続されている。
タブレット制御部4にはペン制御部6が接続されており、これには漢字用入力ペン7a、ひらがな用入力ペン7b、カタカナ用入力ペン7c及び英数字記号用入力ペン7dが接続されている。」(同刊行物第2頁上左欄第18行~同頁上右欄第3行)
c. 「タブレット5は第2図に示すように平板状に形成されており、その上面には格子状の文字入力領域9が形成されており、この格子の1マスに文字1文字を書くようになっている。
このタブレット5内にはペン制御部6が収容されており、これに前述した入力ペン7a~7dがリード線10を介して接続されている。そして、ペン制御部6は入力ペン7a~7dが使用されているかを判定する。」(同刊行物第2頁上右欄第4行~同欄第12行)
d. 「本実施例の動作について第3図のフローチャート図と共に説明する。
まず、ステップS1においてタブレット制御部4とペン制御部6からデータを読み出し、ステッブS2においてこれらのデータを基に文字が書かれているか否かを判定する。
文字が書かれていた理合にはステップS3に進み、ペン制御部6を介して入力ペン7a~7dのうちどのペンで書かれたかを判定するステップに入る。
そして、ステップS4~S6で漢字用、ひらがな用、カタカナ用のペンであるか否かを順次判定し、漢字用である場合にはステップS7、ひらがな用である場合にはステップS8に、カタカナ用である場合にはステップはS9に各々進み、ステップS10において各々の入力文字がオンラインの手書き文字認識装置から入力される。
漢字、ひらがな、カタカナのいずれのペンでもない場合にはステップS11において英数字記号であると認識されステップS10において出力される。」(同刊行物第2頁上右欄第13行~同頁下左欄第14行)
e. 「本発明によれば、入力文字の種類に応じた複数種類の入力ペンを設け、使用されたペンにより文字の種類を認識することができる構造を使用しているため、従来のようにタブレット上に文字の種類に応じた認識領域を設け、領域を指定しつつ文字入力を行う作業は不要となり、入力作業が大幅に簡略化される。」(同刊行物第3頁下右欄第9行~同欄第16行)
そして、上記a.及びe.から、省スベース化を図るという目的及び入力作業の簡略化を図るという目的がそれぞれ読み取れると共に、「手書き文字認識装置」は、手書き文字を認識することによって文字を入力する装置であるから、以上を整理すると、刊行物1には、目的が、入力作業の簡略化及び省スベース化を図ることであり、構成が次のものである発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されている。
多数の格子状の文字入力領域を有するタブレットと、入力ペンとを具備する文字入力装置において、前記入力ペンが各々別体になった漢字用入力ペン、ひらがな用入力ペン、カタカナ用入力ペン及び英数字記号用入力ペンからなり、前記入力ペンのいずれかを使用して前記格子状の文字入力領域に文字が書かれた場合、該文字の種類を前記使用された入力ペンの種類によって判別する文字入力装置
なお、刊行物1には、他の実施例に関して、次の事項が記載されている。
f. 「なお、上述した実施例においては入力ペンの数を4本とし、かつ各々別体になったものとして例示したが1本のペンで複数種類の文字を書き分けられるもの、例えば4色ボールペンのようにノック式でペン先を変えることによりは文字の種類を変えても良い。」(同刊行物第3頁下右欄第2行~同欄第7行)
(2)同じく引用された実願昭58-29391号(実開昭59-134854号公報)のマイクロフィルム(昭和59年9月8日特許庁発行、以下、「刊行物2」という。)には、図形、文字情報を伝送する複合スタイラスペンが記載されており、これについて、次の各事項が記載されている。
g. 「従来のスタイラスペンは、複数色たとえば赤(R)、緑(G)、青(B)が各色ごとに用意されており、目的に応じて所望の色のスタイラスペンで伝送する装置たとえば電子黒板の座標を読取り、その座標に対応する図形や文字情報を伝送している。…(中略)…ところが、このように色ごとに単体のスタイラスペン3本(R、G、B)を用意し、その都度取替えなければならないため作業効率が悪く、しかも形式の異なるスタイラスペンを混同し情報伝送を阻害する等の問題点があった。」(上記刊行物第1頁第17行~第3頁第7行)
h. 「本考案は、上記従来の問題点に鑑み、色の異なる3本のスタイラスペンを1個の結合部に所定の角度で放射状となるように一体化した複合スタイラスペンを提供することを目的とするものである。」(同刊行物第3頁第9行~第12行)
i. 「前述の目的を達成するために本考案は、図形、文字情報を描画するとともに伝送するために用いるカラースタイラスペンであって、複数のカラースタイラスペンを1個の結合部に所定の角度で放射状となるよう一体的に設けたことによって達成される。」(同刊行物第3頁第14行~第19行)
3. 本願発明と刊行物記載の発明との対比
本願発明と刊行物1記載の発明とは、入力の迅速化及び省スペース化を図ることを目的とする点で一致し、構成上は、本願発明の「入力端子」、「入力器具」及び「入力値の形態」は、それぞれ、刊行物1記載の発明の「格子状の文字入力領域」、「入力ペン」及び「文字の種類」を包摂する共に、入力ペンを使用してタブレット上の文字入力領域に文字を書く場合には、“接触”を伴うのが通常であるから、両者は、次の点で相違するものの、その他には実質的な相違はない。
<相違点>
本願発明では、入力の更なる迅速化のために、入力器具が複数の種類の検出部を有するように構成されているのに対し、刊行物1記載の発明では、入力器具がそのようには構成されていず、したがって、この点に係る入力の迅速化は考慮されていない点
4. 相違点についての判断
刊行物1には、先のf.で摘記したように、1本のペンで複数種類の文字を書き分けることが記載されている共に、刊行物2には、先に摘記したように、複数種類の情報を入力するために単休の入力ペンを複数本用意するのでは、必要の都度入力ペンを取り替えることになって作業効率が悪くなるが、これを解決するためには、複数本の入力ペンを1個の結合部により一体化した入力ペンとすればよいことが記載されているから、刊行物1記載の発明において、入力の更なる迅速化を図るために、入力器具を複数の種類の検出部を有するように構成することは、当業者が容易に想到実施し得たことである。
したがって、この点の相違は格別のものではない。
5. 結び
以上のとおりてあって、本願発明は、刊行物1記載の発明及び同2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
平成9年7月30日
審判長 特許庁審判官
特許庁審判官
特許庁審判官